勤め先の書店が閉店する。10年以上、異動や転職を繰り返し、流れるように書店員として働いてきたが、閉店を経験するのは初めてのことだ。
いわゆる「本が売れなくなった」時代から書店員になったので、どうも危機感が足りないし、子どもの頃にバブルが崩壊したので、欲が少なく諦めも早い。アルバイトをしていた地元のセブン|イレブンは別のコンビニになっているし、書店と掛け持ちしていたスープ屋は、結婚相談所になっている。そうやって世の中は循環を繰り返して、今があるのだ。誰も悪くないし、驚くことでもない。
しかし閉店を知らされ、真っ先に思ったのは、これほどの仲間に恵まれることはもうないだろうな~ということだった。これが私の書店員人生の上がりだ。いろいろあったが、最後が穏やかって最高じゃないか。あとは細々と糊口をしのいでいければよい。
今が心地よすぎてうっかりそんな心地になっていたが、いや待てよ。先日、黒猫のくーちゃんが軽い結膜炎になり、獣医に目薬を処方してもらったら、目が霞んだのかと思うほど、お会計が高額だった。私の目からも涙が出る。新井家の大黒柱はまだ隠居している場合ではなかった。さて何をしようかな。今はそんな境地です。
(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)
(本紙「新文化」2022年1月20日号掲載)