第59回 しゃぶしゃぶ食べ放題

 知人としゃぶしゃぶ食べ放題の店に入った。店員に案内された席に着き、タッチパネルで肉をオーダーする。しばらくすると「お待たせいたしました」と女性の声がするも人の姿はなく、ずんぐりとしたロボットがテーブルの脇に佇んでいた。
 頭の部分が棚になっていて、皿を取ると厨房へ帰っていく。通路のスタッフや客を器用に避けて走行する後ろ姿を見ながら、もし書店にいたら何ができるだろう、などと想像した。逆に、人間にしかできない仕事はあるだろうか。
 ところでそのしゃぶしゃぶ食べ放題だが、オーダーしたサイドメニューの鶏唐揚げが、待てど暮らせどやってこない。ロボットが配膳ミスをするだろうか。とりあえず届いた追加の肉をしゃぶしゃぶしたら、あまりにも美味い。選んだお手頃コースの肉は豚のみだが、これは上等な牛肉だ。
 次に野菜盛りを持ってきたロボットをよく見ると、2段に分かれた棚にはそれぞれテーブル番号が振られている。我々はそれに気付かず、すべての皿を取っていたのだ。
 食べ放題だから、細かいことを気にする客はいない。そうして鶏唐揚げは、どこか別のテーブルで受け取られていたのだろう。
 結局ミスをするのは人間なのだった。

(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

(本紙「新文化」2021年10月14日号掲載)