第46回 原作本

 日比谷コテージには、映画の原作本を集めたコーナーがある。映画館が近いこともあって、映像化帯の文庫がよく売れるのだ。
 作家が紡いだ物語が、文字ではなく、映像になって多くの人に届く。そのなかには、原作があるのなら読んでみたいと、映画がきっかけで本に手が伸びる人も少なくない。
 それなら「きっかけ」は、多ければ多いほどいい。書店員としても、小説好きとしても、読者が増えるのは喜ばしいことだ。私は今、そういう理由でストリップ劇場に立って、ある演目を披露している
 原作は、桜木紫乃さんの小説『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』(KADOKAWA)だ。長編をもとに、30分程度の台本を書いた。ストリップは基本的に台詞がない。物語を舞台化するには、演者の数も足りない。
 その条件で、誰にでも分かりやすく、さらに劇場の盛り上がりも考えれば、筋書きは原作通りとはいかなかった。
 だが北海道のキャバレーという舞台や、70年代の雰囲気はそのままだ。そして出演者自ら「原作はこの本です」と、本を片手に舞台の上で演説もできる。
 映画の観客動員数には遠く及ばないが、なかなかインパクトのある「きっかけ」では ないだろうか。

(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

(本紙「新文化」2021年4月1日号掲載)