「子どもが読む本を探しているのですが」と声を掛けられたので、まず子どもの年齢を確認した。その女性は、あなたくらいの娘だ、と答えた。塞ぎ込む娘に本を読むことを提案したところ「読んでみたい」と答えたそうなのだ。
しかし引きこもりが長く、大人の本を読む学力がない。私は気分転換になるように、児童向けの、ハッピーエンドばかりを集めたショートショートを薦めた。読み切れなければストレスになるし、悲しい物語には気持ちがリンクしてしまうからだ。
だが、不安は消えない。ハッピーエンドが気に障ってお母さんに八つ当たりをするかもしれないし、子ども向けの本を買い与えられたことで、嫌な気持ちにさせてしまうかもしれない。
私も20代にかなり苦しい時期があって、幸い本が支えてくれたが、テレビのバラエティ番組をまったく見ることができなくなった。人々が笑い転げる姿は私をますます悲しい気持ちにさせたし、楽しめない自分は頭がおかしいのだろうと、自己嫌悪に陥った。当時の私が唯一好きだった番組は「アンパンマン」である。
そういう人間が今、こうして本を選んで、何かの力になれるといいな、と願っている。そのことだけが、なんとか1冊の本を選べる根拠だ。
(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)
(本紙「新文化」2019年12月19日号掲載)