本を自分の手で売るのではなく、「私のオススメはこれです」と選書だけする仕事がどうも苦手だった。遠すぎて見えない賽銭箱に、振りかぶって誰かの大事なものを投げるような後ろめたさがあるのだ。
先日公開された大塚製薬「エクエル」のサイトでは、そんな私が「美しく生きるための一冊の本」キャンペーンで、選書を担当している。いくつかのYES・NO診断で、その人に秘められた潜在能力を導き出し、最後に「今の気分を表す色はどれですか?」と聞くのだ。黄色なのか赤なのか青なのか。この設問があるおかげで、その人の表情が見えるような気がして、ずいぶん選書がしやすかった。
本の面白さは、読書傾向や、本そのものがもつ力だけでなく、今の気分に合ったものかどうかが、大きく影響してくる。苦手だと感じていた理由はこれだった。少なくとも自分は、まったく気分に合っていない本を押し付けられるのは嫌である。
仕事で明日までに読まなければならないのに、どうも進まないときはたいていこれだ。面白いのはわかるのだが、今の気分じゃない。
「気分選書」は不特定多数の見えない相手には通用しないが、今回は良い選書ができたと思う。ぜひお試しください。
(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)
(本紙「新文化」2019年10月10日号掲載)