2021年11月、同年6月に実施された学校読書調査の結果が発表された。この調査では毎年、小中高生に「読んだ本」を訊いているが、その結果から最新の中高生の読書傾向について考えてみたい。
ジャンルとしては、ケータイ小説系の泣けるライト文芸(とくにTikTok売れしたタイトル)、ミステリー、ジャンプマンガなどのノベライズが強かった。作家では従来の住野よるに加え、強いシリーズ作品をもつミステリー作家の知念実希人と東野圭吾が、複数の作品で高校生の「読んだ本」の上位に食い込んだ。今回の調査から「シリーズ作品はひとまとめでカウントする」ことになったのも、その理由のひとつかもしれない。
ランクインした知念の作品3点が、なぜ高校生に人気なのか、推察してみよう。
まず『仮面病棟』(実業之日本社)。強盗犯が病院に立てこもり、閉じ込められた医師と患者が脱出を試みながら、犯人の意図や病院の秘密を探っていく内容だ。これは「閉鎖空間からの脱出」をかけた、一種のデスゲームものである。
次に『崩れる脳を抱きしめて』(同)は、脳の病気を患う富豪と金銭欲の強い担当医とのラブストーリー。これはTikTok売れしたライト文芸によく見られる、「男女どちらかが死ぬことが物語開始時点から確定している悲恋もの」と共通する特徴をもつ。(※デスゲームやTikTok売れ作品については、昨年本連載のなかで触れた通り)。
最後に「天久鷹央の推理カルテ」(新潮社)。病院内で起こる事件や診断が困難な病気の謎を解明する、童顔で高飛車な主人公・天久と、ワトソン役でいじられ役の同僚・小鳥遊のコンビによる医療ミステリーである。実年齢はさておき、見た目はまるで子どもの天久は、病院経営をビジネスとして捉える父親と対立する一方で、ほかの大人たちが手を付けられない事件も解決していく。
こうした「子どもが(汚い)大人に勝つ」という設定は、小学校高学年から中1に人気の、原作・藤本ひとみ、文・住滝良「探偵チームKZ事件ノート」(講談社青い鳥文庫)などと共通する。
学校読書調査では、中学2、3年生になると、人気作品の並びから児童文庫は消える。ただしそれは、パッケージや登場人物、文章がいかにも幼く感じられるようになるからであって、物語の設定や展開など、本質的な部分の問題ではないのではないか。
大人に対する反発心があり、子どもが大人を打ち負かす展開を求めるという点は、小学校高学年であれ高校生であれ、本質的には変わらない。そんななかで、たまたま高校生の感覚にフィットする装丁や文体になっていたのが、「天久鷹央~」だったと思われる。
こうした知念や東野人気は単に、「ミステリーが人気」「大人に読まれている作家が、高校生にも」という視点だけで片付けるべきではない。学校読書調査や朝読ランキングに並ぶほかの作品と比較することで、この年代特有のニーズ、支持される作品の傾向がより鮮明に見えてくる。
(2022年3月10日更新 / 本紙「新文化」2022年2月3日号掲載)