第7回  私の居場所

 ビックロ閉店のニュースに、ジュンク堂書店新宿店のことを想う。新宿店のことを考えると、私の心はきゅっとなる。はじめて自分の足で立てた場所。24時間いてもいいくらい、大好きだった私の居場所。
 最初は本当に狭い狭い児童書売場だった。もともとトイレだった場所を潰したところで、なんだか暗くて「魔界」と呼んでいた。新店立ち上げにかかわるのも初めてで、どうしたらいいかわからず、毎日泣きそうだった。
 そんななか、「忙しくっても絶対見たほうがいい」と知人に言われ、渋谷に見にいったスズキコージさんのライブペインティング。エネルギッシュで生々しくて、私はこれを売場からお客様に伝えなくてはいけない、と天啓のように感じ、新宿店の仕事にのめりこむようになる。
 目の前には巨大な老舗書店。初めの頃、本当に人が来なかった。アルバイトも社員も、やっと来てくれたお客様に、絶対来てよかったと思ってもらえるように接客しよう、と一丸となっていた。そのお客様が、「ここはいろいろとゆっくり相談にのってもらえる」と再来店してくれるのがうれしかった。そうこうするうちに客足も伸び、改装を重ねて巨大な本屋になっていった。
 新宿店には多くの作家さんも来てくれた。見かければ声をかけ、サイン本やイベントをお願いする。同年代の作家と夜な夜な飲んでは、一緒にフェアの企画を練ったりした。今思えば、本当に図々しかったと思うけれど、みんな優しかったし、協力を惜しまないでくれた。
 働く私達やお客様、そして作家さんや出版社さん。みんなの力で少しずつ形になった店だった。2004年10月から13年3月。たった7年半。でも本当に充実した時間。この日々があったから、私は今も書店員を続けているのだと思う。

 新宿店では数々の本を仕掛けたけれど、最も思い出深いのが、私が日本一売ったであろう『こどももちゃん』(偕成社、たちばなはるか作・絵)。こどももちゃんはなんだかごきげんななめ。どうしてかな。三桁ほどのお客様に不機嫌の理由をたずねてみたけど、いまだに当てた方は0人。でも、オチを聞くとなるほどね、とみなさん笑顔になって買ってくださるありがたい本。
 桃の香りのスプレーを売場に散布し誘惑したり、顔出しパネルをつくったり、あの手この手で仕掛けをしたなあ。奇しくも新宿店と同じ時期にオープンした丸善丸の内本店で、たちばなはるかさんが作ってくれたこどももちゃんが、今も私と一緒にすっくと店頭に立ち頑張ってくれている。
(本紙「新文化」2022年7月7日号掲載)